ニュースの概要
大阪大学産業科学研究所などの研究グループが、人の目に見えない近赤外光だけを吸収して発電する、無色透明の有機太陽電池を開発した。可視光はそのまま通すため、窓に貼っても明るさや景色をほとんど損なわない。これまで太陽電池が発電するには可視光を吸収する必要があると考えられてきたが、材料の設計を見直すことで、近赤外光だけを利用する仕組みを実現したという。実用化が進めば、オフィスビルや住宅の窓そのものが発電設備になる可能性がある。屋根や壁に限られていた太陽光発電の設置場所が、一気に広がる点が大きな意味を持つ。
引用元: 大阪大学など、窓ガラスに利用できる無色透明の有機太陽電池を開発(Denki Shimbun)
分析・見解
色を捨てて光の一部だけを使うという発想の転換
従来の太陽電池は、できるだけ多くの光を吸収して電気に変える設計だった。シリコン系の黒っぽいパネルが典型である。だが吸収が増えるほど、向こう側は暗くなる。窓に使えない理由はここにあった。
今回の成果は、太陽光に含まれる近赤外光(=目に見えない、熱として感じる光)だけを狙い、可視光は素通しにした点にある。太陽光のエネルギーの約半分は赤外域に分布するとされる。見えない光だけでも、取り出せる量は小さくない。
変換効率の低さをどう評価するか
透明化には代償がある。可視光を使わない以上、変換効率(=光エネルギーのうち電気になる割合)は、屋根用の結晶シリコンの20%台には遠く及ばない。透明型の有機太陽電池は、一般に数%から高くても10%程度とされる。
ただし、比べる相手を間違えてはいけない。この技術の競争相手は屋根のパネルではなく、「何も発電していない窓」である。高層ビルは屋根面積が小さく、壁面と窓の面積が圧倒的に大きい。効率が低くても、面積で稼げる。
さらに、近赤外光を電気に変えれば、室内に入る熱が減る副次効果も期待できる。夏の冷房負荷を下げる遮熱ガラスと発電を兼ねる、という見方もできる。
耐久性と製造コストが実用化の関門
有機太陽電池の弱点は寿命である。酸素や水分、紫外線で材料が劣化しやすい。窓ガラスは20年から30年使うのが前提で、屋内外の温度差や直射日光にも耐えなければならない。
日本では、軽くて曲がるペロブスカイト太陽電池が国の後押しで先行しており、積水化学工業などが量産に向けて動いている。ここに透明な有機型が加わる形だが、立ち位置は少し違う。ペロブスカイトは壁面や屋根の軽量化に強く、透明有機型は窓という別の市場を狙う。競合というより、建物の表面を分担する関係に近い。
本当の価値は電気より設置場所の自由にある
見落とされやすい点がある。この技術の価値は発電量そのものより、設置の許可が取りやすいことにあるかもしれない。景観規制のある地域、ガラス張りの商業施設、歴史的建造物の改修など、パネルを置けなかった場所が候補になる。発電量が小さくても、設置の壁が消えれば、導入件数で逆転する余地がある。
ビジネスへの影響
ビル・不動産事業者は窓の更新時期を見直す好機
大規模ビルの窓は、改修のたびに交換や遮熱フィルムの貼り付けが行われる。この更新タイミングで、発電機能付きのガラスやフィルムが選べるようになれば、追加の設置工事を減らせる。ZEB(=年間のエネルギー収支をほぼゼロにする建物)の達成に向け、屋根だけでは足りない高層ビルにとって、窓は新たな上積みの手段になる。
ただし現時点では実証段階である。今すぐ発注する話ではなく、改修計画の候補として情報を追い、実証事業に参加できるかを探るのが現実的だ。
建材・ガラスメーカーには組み合わせの競争が始まる
窓の発電は、太陽電池メーカー単独では完結しない。ガラス、サッシ、フィルム、配線、パワーコンディショナー(=電気を使える形に整える装置)まで含めた設計が要る。建材メーカーと材料メーカーの提携が価値を左右するだろう。
投資や事業開発の視点では、材料の特許を持つ研究機関や、フィルム加工に強い中堅企業が注目点になる。一方で、耐久性の実績がない段階で大型契約を結ぶのは危うい。10年相当の加速劣化試験の結果と、保証条件を必ず確認したい。
導入判断では発電量より総合効果で試算する
この技術を検討する際、発電量だけで投資回収を計算すると、ほぼ確実に採算が合わない。遮熱による冷房費の削減、景観や意匠の自由度、環境認証の取得による物件価値の上昇まで含めて評価する必要がある。採算の軸を変えられる企業だけが、早期導入の利益を得られる。